弦楽器のテンションとは本来、弦の張り具合をさしますが、広義ではブリッジやナット周りにかかる振動効果の影響も含まれると捉えています。実はミュージシャンのプロアマに限らず楽器メーカーや販売に携わる方々でさえこのテンションの概念を曖昧に独自の解釈で認識されていることが多いと感じています。チューニングや弦のゲージを変えたり、スケール長が違うギター・ベースを手にしたりすることでテンション(張り)が変わることは感覚的に把握できるでしょうが、それに付随する部分について理解が深まることで楽器のセッティングをより高い視点で分解し意識できるようになると思います。

例えば、弦高を調整すると弾き心地が変わるのは弦のテンションが変わったと誤解されがちです。しかし、これは指が弦に触れフレットに着地するまでの距離の差異で反発力が変化しているのであって、弦の高さを変えたからといって弦自体の張りがキツくもしくは緩くなったわけではありません。所定位置から距離が遠くなればなるほど反発力が強くなるバネなどの原理と同じです。弦高やネックの反り、ブリッジやヘッド周りの負荷の掛け方を調整し響きや弾き心地が変わったとしても、それは弦の張力が変化したわけでは無く別の理由から起因すると理解できるようになると弦楽器の鳴りをよりイメージしコントロールできるようになります。

弦楽器は『同じスケールで同じゲージかつ同じピッチを維持している』限り、セッティングやパーツ(もっと言えばギターやベース本体をも)変更しても張られている弦のテンションは一切変わりませんこれらすべてを維持した状態で張力だけ変更することは地球の物理法則上不可能です。所定のセッティング変更のあとに任意のチューニングに矯正した時点で弦のテンションは調整前と全く一緒にもどります。必ず決まった音程にチューニングする弦楽器ではテンションを~とされている調整の大部分は、「両端接点の圧力変化」を弦振動に影響させる行為であることを強く理解する必要があります。本来相応しい言葉はテンション(張り)ではなく両端接点へのプレッシャー(圧)なのです。接点の焦点を絞るか散らすかで弦の振幅や減衰が変化し、音の立ち上がりや余韻、そしてチューニング精度にも影響します。ネックやボディが共振しやすい設定をうまく捕まえることが出来れば鳴りは大幅に改善され、これには常にその楽器固有の構造やパーツに付随するそれぞれの要素の検証も不可欠です。ハイエンドな価格帯のギターやベースは木材の質や組み込み精度もさることながら、このあたりの設定も非常に上手いので、出荷時のセットアップをそのまま楽器店で弾いても気持ちの良い鳴りをしてくれるのです。

設計者の意図がパーツや構造に反映されていることを加味すると、特殊な変更を加えることなく調整可能な範囲内で一番鳴りの良い状態に持っていくことが理想ですが、コストや生産性優先の楽器も少なからず存在し、精度や設定の追い込みが難しいものがあるのも事実です。これらはアフターパーツに換装することで音質変化を試みれると同時に、演奏勝手やチューニングの改善などを見込める場合もあります。