PUはエレキギター、ベースでは音を構成する重要な要素です。楽器調整が十分に行き届いている前提で、最後に音質・キャラクターを決めるのはPUのセッティングとなります。ギター雑誌やメンテナンス本ではマグネットやコイルの仕組、位相や配線の解説に紙面を割いているものの、理想的な位置関係へのセットアップについてはほぼ触れられていません。正常に機能していれば個人の裁量にまかせられるようなポイントを、いかに良い設定に落とし込めるかが調整の本質であり、重要な部分と考えます。

PUは出荷時のセッティングから変更せずとも問題無く音は出ますが、その楽器にふさわしい合理的なセッティングの落とし所は存在します。以下にマグネットPUが搭載されているエレキギターやベースの推奨されるセッティング方法をまとめてみました。

1.PUを弦に近づけられる物理的限界、遠ざけられる限界

まず、この範囲を把握することが重要です。ネジが落ちる・回らなくなる、筐体が弦やボディに接触するなど、なにかしらの不具合が起きるポイントがその個体の限界値です。複数個のPUがマウントされている楽器はポジションごとでもこの限界が違うと思います。傾かせ具合やキャビティ内のマージンによっても可動域の制約が生じます。*こういった場合には可動域の調整範囲を再考するカスタマイズを施すことでも音の調整範囲と柔軟性は大幅に増えます。

2.聴感上のPU出力

基本セッティングする上で大事なのはまずは音色よりも聴感上の出力バランスです。PUにはリプレイスメントの定番からメーカー純正含め、同じ型番でも生産時期で使われる素材の変更や、経年劣化での磁力の変化や内部ワックスが硬化・剥離することでも音質が異なるため、音質の判断は弦からの距離感すなわちアウトプットレベル調整が終わった後にするのが妥当と考えます。

PUが2つ以上搭載されている楽器はクリーントーンでPU間の音量差が無いことが音作りの側面から見れば理想で、基本的には楽器を設計する段階で出力バランスの整ったPUが搭載されています。ブリッジに近いほど弦の振幅エネルギーが弱くなり入力レベルが下がるため、現代の設計思想に基づくデザインではリア側のPU出力が強めに設定されることが多いです。

均等な音量感にした方が良い理由としてはPUセレクターの自由度を増やせることがあります。一方の音量が他方よりも大きいと、ポジションを変更するたびに出力レベルが変化してしまいます。PUレベルの大小はアンプやエフェクターの各設定に対してそれぞれ反応が異なるため、切り替えを頻繁にするプレイヤーは特に音量イメージがつかみづらくなり演奏上ストレスになります。PUごとに出てくる音量とキャラクターの一貫性が乏しくなるほどセレクター位置毎に演奏スタイルの制約が出るので、扱いにくい楽器となっていきます。

3.各弦のバランス

鉄弦の振幅運動を拾う構造のマグネットPUは、太い弦の方が振動エネルギーも強く入力が大きくなります。これをPUのキャラクターに合わせてすべての弦が均等に近い音量に聞こえるように傾きを整えセッティングすると、アンプでのニュアンスやダイナミクスのコントロールが圧倒的にスムーズかつ直感的になります。音をコンプレッション・歪ませるメカニズムは、ある一定以上の入力に対して反応するため、原音の入力段階で整えることで過度な設定を作らず各弦が均一なスレッショルドで処理されます。これは機材での音作りにおいて音の表情を保つための非常に重要な大原則です。

ハイエンド系のギターやベースの多くは出荷時からこれらの状況を考慮しPU設計、設定・セットアップされている印象なため、あまり調整を要さないこともありますが、ボビンの軸が可変できるタイプのPUなどは、指板のR形状に沿い微調整することでより細部まで落とし込みもできます。ストラトのシングルコイルなどは3、4弦付近のボビンが最初からせり上がっているのは出力やPUキャラクターのレンジ感に対してこれを逆算した状態といえます。

4.それぞれの楽器ごとのレベルの違い

プロミュージシャンがツアーなどで複数本のギターやベースを持ち回るときには、先の3点を踏まえ使用するすべての楽器が可能な限り同じ出力感であるほうが取り回しをしやすくなります。テレキャスからストラトに持ち替えた際、求められるのはトーンキャラクターの変化であって音量感の変化ではありません。そのため本番で使用する本数分すべてを加味したPUの距離感を定め、基本音色に対してどの楽器も均等なレベルでアンプへ入力されるように設定していくことで無駄にコンプレッサーや歪みの設定を作らずともアンプ本来の音で勝負できるようになります。

極端に出力やキャラクターが特異なPUの場合、それを使うための設定やアプローチを別に作らなくてはならなくなります。なるべくそれを避けられたほうが音の一貫性や各エフェクター設定、アンプチャンネルのストーリーが健全に構築できるので、入力レベルの落とし込みが非常に重要となるのです。

5.音質

ここまで揃えることが出来るとようやく音質のファインチューニングとなります、個人の感覚や経験値、センスに依存する部分でもあります。落とし込んだ設定から少しだけ巻弦の音を強くもしくは弱くしたい、や、フロントよりリアの方のコンプレッション感を強めたい、など。また、PUのキャラクターや特性が自分の求めるものか否かもここで把握することが望ましいです。はじめから音質ありきでPUのセッティング(高さ)を決め込むと、特定の条件下でしか成立しない不自由な音となるため、セレクターのポジションや他の楽器に持ち替えた際に作った音や設定が意味を成さなくなるため注意が必要です。