弦楽器には、弦とボディをつなげる為の接点がいくつか存在します。これらのパーツは楽器を綺麗に発音させるために非常に重要なことは言うまでもありません。ペグやブリッジなどは同規格のものや純正のリプレイスメントパーツに交換することはさして難しくは無いので、不具合が発生したときに自分自身で交換することもできます。

かたや、ナットやフレットとなると交換には仕上げるために専門的な技術や経験が必要となるため、鳴りが損なわれてもそのまま使い続けてしまいがちで、ナットに関しては目視だけでは状態を確認するのは難しく音質、弦高のバラつき、チューナーの挙動などから総合的に判断します。

ナットが磨耗しているかどうかを判断するサイン

3フレットくらいから下へゆっくり一音ずつ弾いたとき、1フレットの音と開放弦の音質が極端に違う(高音が詰まっている、サスティンが短い、開放弦だけビビるなど)

12フレットのナチュラルハーモニクスと開放弦を交互にピッキングし、チューニングメーター上で実音ピッチのずれが目立ち、メーターの挙動が不安定(ピッキングした瞬間に大きくシャープする、音程が定まるまで時間がかかる)

引き起こされる具体的な不具合

開放弦の実音程と倍音の音程がずれてしまうため、12fの実音でオクターブを揃えても、全体的にピッチ感が甘く聞こえる。

開放弦を多用するオープンコードなどで特定の弦が綺麗に発音されない。細い弦ほど溝の状態がシビアに影響します。

原因

ナットの指板側では溝の端で直角に弦が乗っている状態が理想ですが、弦振動の磨耗でこれが円錐状に広がりはじめると上記のような症状が目立つようになります。このためゼロフレット位置での出発点が振動の強さによりバラけ、ピッキングの強弱によって弦長が摩耗面で変化します。接点が定まってないので振動も当然ロスしています。アタックの瞬間、開放弦のチューニングが一斉に甘くなるため、綺麗にチューニングしたつもりでもコードの一体感や立ち上がりのスピード感が損なわれます。チューニングに対してテンションが低めの弦ゲージなどでは振幅が大きくなるため特に顕著に現れます。

また、接地面の精度や接着剤の経年劣化・変化により密着している台座部分にわずかな隙間ができることもあるため、溝の磨耗は少なくてもナット自体が振動を吸収するダンパー的な効果が強くなり音が詰まって聞こえることもあります。

上記のような状況が疑われる場合にはナット交換をすると各弦の音量バランスやトーンに統一感が出ます。また、ネックへの振動伝達効率も良くなるため音量感が増し、ピッチの不安定さも改善されます。弦のゲージがナットの溝幅に合ってない場合にも当然修正が必要です。エレキギターだと一般的には10~46近辺のゲージが乗るように溝が切られていますので、52のE弦では溝に落ちない場合があります。

アコースティックギターに関しては、現代のものは太いゲージで張りを強く保つことで不要なミッド感を抑えタイトな音像にしピエゾやマグネットPU信号の加工のしやすさを計算した音にチューニングされている印象です。かたや十分に木材が乾燥した年代ものは比較的軽めのゲージでセッティングした方がボディ全体の鳴りを存分に活かせることが多いように感じます。こういったセッティングに応じたナット溝のアレンジも音質向上に繋がります。